Wednesday, March 8, 2017

レビュー:逃げるは恥だが役に立つ




テレビ番組はただ単に私たちを楽しませてくれるだけではない。人々を感動させることもできる。これが単純に良い番組と素晴らしい番組との違いだと思う。この基準からすると、逃げ恥は素晴らしい番組に当てはまるだろう。

逃げ恥のストーリー設定はとてもわかりやすい。主人公のみくりはやる気はあるが無職の若い女子。とあることから彼女はオタクなプログラマー、ひらまさの家でメイドとして働くこになった。ひらまさは次第に仕事のできるみくりを頼るようになる。ある日、両親の引っ越しにより、住む家を失いかけたみくりは、ひらまさに「契約結婚」をして同居をしないかと提案した。その提案では、二人は結婚をし、周囲にも夫婦のようにふるまうが、実際にはプラトニックな付き合いでメイドとしての仕事は継続し、みくりはひらまさから給料を受け取るというものだった。

大方の予想通りストーリーは展開する。みくりは真面目で大人なひらまさに恋に落ちるが、彼はいわゆる草食系男子だった。日本では女子や恋愛に興味がないオタク男子を草食系男子と呼んでいる。このため、みくりの恋愛感情は一方通行の片思となってしまう。

最終回までのストーリーはとても良いペースで進んだ。始め、ひらまさとみくりの関係の展開にややじれったさを感じたものの、最終的にはそのゆっくりなペースが物語を楽しむ要素。となった。ゆっくりとしたストーリー展開は登場人物たちの個性を育て、彼らの恋愛感情がナチュラルに表現されていた。このドラマを見ている男性は、ひらまさがなぜみくりにこんなにも魅かれたのか理由がわかるだろう。彼女は明るくて優しく、ひらまさの人生をよりよいものに導いてくれた。また、女性たちはなぜみくりがひらまさに恋をしたのかわかるはずだ。彼は真面目で賢く、辛抱強さも持ち、そして何よりも自身の殻を破り自分を成長させてくれるみくりとの日々に感謝をしていた。逃げ恥は男女がお互いのために協力し、より良い家庭を築くという、シンプルながらも理想的な結婚を再現しているのだ。

男女の登場人物に皆が感情移入できるということから、逃げ恥は日本で大ヒットを記録し、最終回放送後には巷に番組終了を悲しむ人々であふれていたとニュースになるほどだった。ひらまさは大人で頭が良いが、ありえない程の天才ではなく、またみくりは可愛いけど、ビクトリアシークレットの下着モデルたちのようなずば抜けた美人でもない。そう、彼らは共に普通の男女。互いを尊敬し、やさしさ、勤勉さを持ち、二人の手の届く幸せを探している。それはよくテレビの中で目にする非現実的なものではなく、視聴者の私たちの日常にも起こりうるような身近なものだった。

彼らを演じた俳優たちの力も大きく影響している。新垣結衣はみくりの個性を十分に表現し、ひらまさ役の星野源もしっかりと適格に役を演じきった。しいて言うならば、ひらまさの自由な独身男性の生活の描写を充実させてほしかった。

俳優陣の演技力に加え、ドラマのストーリーがおもしろかったことも大きい。各回に日本の人気番組のパロディーを加えていた。私のお気に入りは、第四回のエバンゲリオンのパロディーだった。特に古田新太の演じる、ひらまさの同僚沼田は一風変わったシニアエンジニアで、一番ユーモアにあふれた面白い登場人物だった。逃げ恥はサイドストリーもうまく加え、みくりとひらまさの関係を築いていた。

ほとんどのサブストーリーは本筋に対してのうれしいおまけのようなもので、例えば同性愛者の同僚のサブストーリも面白く、締めくくり方もかわいいものだった。みくりの叔母とひらまさと同僚風見のサイドストーリーでは、恋愛感情ではないものの二人の気持ちがしっかりと描写され、よく考えられたものだったと思う。そして、ヤッサンのサイドストーリーも忘れられない。ヤッサンはみくりの古い友人で、夫に浮気されたのちに離婚をするのだが、この部分では従来の結婚の形がどのように行き違い、壊れていくのかを表現することが意図されており、うまく視聴者にも伝わっていたと思う。個人的にはドラマ内に出てくることのなかった、ヤッサンの夫視点でのシーンも加えてほしかった。彼らの離婚が娘の成長過程に父親の不在を与えてしまう難しい選択であったことを描写するのみでとどめられていた。

一番の残念な点はドラマの最終回、特に最後の終わり方だった。エンディングのネタバレはしない程度に説明したいと思う。みくりは気持ちの中でひらまさとの関係に変化を感じるようになる。二人が契約結婚の内容を大幅に変更しようとする際、みくりは仕事とプライベートのライフバランスをうまく取れなくなってしまった。おそらく、ここは彼女にとって、自分について再認識し、ひらまさに対する感謝を強めるための重要なシーンなのだが、問題はこの大きな変化を表現するのに、最終回の後半部分のみという限られた時間しか残っていなかった点だ。最終回までの十話でじっくりと組み立てられてきていたものたちを、最後の最後で慌てて終了に持っていかれてしまったような残念な気持ちになってしまった。

ドラマは期待通りのハッピーエンドを迎える。最後の10分は面白くて、期待通りだった。なにより、今までのストーリの内容を崩さない。伝えるだけではなく、見せることが素晴らしいドラマだったと思う。逃げ恥は身近に私たちにも起こり得るような、魅力的なラブストーリーを見せてくれる。結婚というものの中にある、男女の役割、それぞれへの敬意をユーモアなタッチで表現し、視聴者を引き付けていたのだろう。このドラマはコメディータッチのドラマが好きな外国人の方にもおすすめだ。

逃げ恥は今時の日本の恋愛模様をうまく表現している。人口の減少など、日本の家庭生活を皮肉るものが多い中、逃げ恥は私たちにポジティブな印象を吹き込んでくれるようだった。不自然な設定が本物として表現されている、TrainwreckYou’re the Worstのような西洋のザ・ラブコメをたくさんみてきた私には、自然とお互いに優しくなれる人々の関係を表現してる逃げ恥というドラマが、目新しく感じられた。

数えきれないほどあるアジア諸国の恋愛ドラマの中でも秀でたものがあり、一度は観る価値のある作品である。